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時計修理の現場から
『Cal.1570 2番車芯の磨耗と加工(2) 』
まずは旋盤を使用して磨耗した中心軸を可能な限り平滑になるよう切削し、鏡面になるまで磨き仕上げを施します(写真下)。
しかし、ここで注意したいのが”鏡面仕上げにするのが目的ではない”ということです。秒カナを通すために中空になっている軸を設計時の数値より細くするのですから、可能な限り削らないほうが良いのは確かです。

(写真をクリックで拡大写真)


鏡面にこだわるあまり、強度が不足するまで削りすぎてしまっては本末転倒です。ごく薄くなら筋目が残るような場合でも、日常使用において問題無く動作が保証できる場合もあります。


部品の供給が絶たれた時計の修理の場合、新品時の100%の状態に戻すのが難しいことも多々あります。不本意ながら”妥協点”を見出すことが必要となってくることをご理解いただければ幸いです。


2007/07/27
 
『Cal.1570 2番車芯の磨耗と加工(1) 』
おかげさまで多くの修理依頼をいただき、お預かり期間が どんどん長くなる状況で、更新よりも一刻でも早く修理を、ということで長らく更新を怠ってしまいましたが、なんとか落ち着いてまいりましたので、このコラムも少しづつ再開していこうと思います。

この間、題材になりそうな写真もかなり撮りためました。希少なムーブメントや珍しい故障原因等、多種多様の事例が紹介できそうですのでご期待ください。


写真右はロレックスCal.1570の2番車を拡大した画像ですが、オイルの切れた状態で何年も動かし続けたため、2番車の中心の軸に無数のスジ目が刻まれ、削れて段差がつくまで磨耗してしまっているのがわかります。
 


(写真をクリックで拡大写真)

この場合、修理の進め方として、「当社は独自のルートを持っておりロレックスの部品も問題なく入手できます」ということで解決しそうですが、基盤となる地板の穴も磨耗しており(写真右)、2番車だけを交換したとしても、スキマとガタが生じます。

 


(写真をクリックで拡大写真)

この場合は2番車を交換するよりも、軸と地板両方に加工を施すほうが得策と考えております。

これから数回にわたってその手順を公開してゆくつもりです。
 
2007/07/20

 

『ラグのキズ 』


他店に持ち込んだ履歴のあるロレックスのケースラグを見ると、画像のようなキズが付いているものを多く見かけます。これは、時計店がバンドを取り付ける際に、バネ棒でラグを削ってしまって付けたキズです。
 


専用工具もありますが、一般的なバネ棒入れでも、保護テープ(セロテープで可)を張ってからバネ棒を押し込めば、よほどのことが無い限り、キズが付くのは防げます。

むしろここで問題にしたいのは、お預かりした時計にあからさまなキズを付けているのにもかかわらず、気づかない、もしくは目立たない部分だからわからないだろう、とそのまま引き渡すという、修理品に対する考え方です。

このような業者が"時計店"、"時計修理"を看板に掲げているというのは、信じられないというか、同業者として恥ずかしくないのか、という気にさせられます。
 

当社で"ケース仕上げ"を施せば、使用に伴って付いたキズと一緒に、よほど深いものでない限り、元に戻すことが可能ですが、このキズがあまりに痛々しく感じるので、オーバーホールだけの依頼でも、ラグだけはこの状態にまで復元してお客様に返すようにしています。
 


メーカーでなくとも技術があり、良心的な修理作業を行うところは多く存在します。そういったところが、一部の無頓着な業者のために、「やはりメーカーで無いと・・」という評価で一緒くたにされてしまうというのは大変残念なことです。

2005/09/01

 

『ステンレス=サビない? 』


ステン=サビ、レス=〜しない、ということで、ステンレスは「サビない」という」認識が一般的なようですが、実際は「サビにくい」金属であり、ある特定の条件を満たした場合、サビが発生します。

ある特定の条件とは?
ステンレスは空気に触れると表面に皮膜を形成します。定期的な空気の循環があることで、この皮膜を維持し、酸化(サビ)を防ぎます。空気の循環が難しく、水分や塩分が留まるような条件の場合、サビが発生します。

時計の場合、ケースと裏蓋のねじ込み部、ケースとベゼルの間などがまさにこの条件を満たします。

サビにくく質の高いステンレスを使用していると言われている’70年代のロレックスですが、定期的なオーバーホール、洗浄をほどこさないと、画像の様になることもあります。
 


(写真をクリックで拡大写真)

これまで、「オーバーホール済み」として販売された直後の中古ロレックスを数多く見てきましたが、ベゼルを外すとサビだらけだったものが少なくありませんでした。これは、見えない部分なので効率化を図るために、作業を省略したものと推測されます。

当方のオーバーホールはケース、ベゼルを分解した後、サビを丁寧に除去し、防サビ加工を施します。しかし、サビを除去いたしますと、その部分が凹んだようになり、パッキン等では埋めることができなくなります。この場合、当然防水機能は失われ、非防水として使用していただくことになります。

また、水分がケースでとどまらず、ムーブメントまで浸入した場合、致命的なダメージを与え、修理不能になることも少なくありません。

サビが進行する前にオーバーホール、洗浄をすれば、防水機能は末永く保たれます。

2005/05/22

 

『スピードマスター Cal.861今昔 』


画像のcal.861(銅メッキされている方)は’70年代のものですが、クロノグラフ秒針を停止させる「Blocking lever」と呼ばれる部品(画面上赤く囲った部品 ・・・写真をクリックで拡大画像)が、’80年代から、”デルリン”という樹脂製部品に変わっています。
 

この変更について、巷では「オメガの品質低下」の象徴的部分、というように語られているようですが、果たしてコストダウンのためだけなのでしょうか?

この部品は、微細な歯を刻んであるクロノグラフ歯車面と直接接触する部品で、変更前までは、スチールから切削加工されていましたが、当然歯の材質である真鍮よりは硬いものです。それが直接接触するということは、クロノ歯面の磨耗、変形に繋がる可能性も考えられます。また、スチールのレバーと真鍮の歯車では、部品同士を接触させても摩擦が少なくスリップし、正しい計測が不可能になるという、クロノグラフにとっては致命傷ともいえる現象が現れます。

デルリン樹脂と真鍮の場合、樹脂側が柔らかく、摩擦が増えて確実に停止させることができるため、この辺りにも、材質変更の理由があるのではないかと私は推測しています。

シースルーバックのスピードマスターは旧来どおりのスチールですが、これはやはり「外観を重視」した措置ではないかと思います。
 

また、加工精度そのものは現行のcal.1863(画像右・ロジウムメッキのもの・・・写真をクリックで拡大画像)のほうが優れているともいえます。

 


’70年代までの切削加工の部品は、地板と微妙に擦れるらしく、マニュアルに記載されていない隙間に注油しなければならない場合がありますが、現行品はまずマニュアル通りでOKです。

時計には嗜好品としての側面も多分にあるため、ムーブメント外観は重要ですが、それだけで時計の機能まで優れているとは、一概には判断できないと思います。

雑誌等で、ムーブメントに対して様々なコメントが掲載されていまが、それに対する設計者からの意見というものを是非とも聞いてみたいものです。

2004/10/29

 

『針回し状態で秒針停止させて秒あわせを行う方法について 』


秒針停止機能(ハック機能)のない時計で、秒針合わせを行う方法として、時計雑誌等で、リューズを引き出して、針を逆に回す方向に力を加え、針が逆転するかしないかのところで秒針を止める方法が紹介されています。(’70年代前半のロレックスの説明書にもこの方法で秒あわせができます、との記載があります)

この方法は、ハック機能のように専用の部品が働くものと異なり、テンプ/アンクル/ガンギ車/の脱進器の物理的作用と、筒かなと二番車の摩擦によって、半ばイレギュラーな動作で停止させるもので、時計修理者の間では、「機能」というより「現象」として認識されています。

この状態にする方法としましては、筒かなのカシメを強くして、二番車との摩擦を増す方法(針回しが重くなります)がありますが、この処置をしますと、年数が経過して、地板、キチ/ツヅミ車、日の裏車などが少し磨耗している時計の場合、これらの部品にかかる負担が増大するので、長い目で見ますとあまり得策ではないという判断をしております。

3〜4年ごとの定期的なOHがなされてきた時計で、全ての部品が良好な状態ですと、停止機能を回復させても問題は無いのですが、多くの修理品の時計の場合、この機能にこだわらず、他の部分の耐久性を考慮する目的に加え、前述のように、機械式時計に秒のセッティングは不要ではないかという見解から、筒かな/二番車の摩擦は少なめにし、針回しを軽めにするセッティングとしています。

2004/08/11


 

『磁気帯び』


人体に与える電磁波の影響が色々と取り沙汰されていますが、機械式時計には磁気帯びとなって、確実に悪影響を及ぼします。

修理に来た時計を、分解前に調べてみると、程度の差こそあれ6割近くが磁気帯びしています。
 

高価なガウスメーターという専用測定器もありますが、方位磁石を利用し、ガラス面同士を接触させないようギリギリで時計ををゆっくり動かすと、磁気帯びしている場合、動きに同調して方位磁石の針が振れますので、磁気帯びの有無がわかります。
 


この場合、最も問題になる磁気帯びというのは、ヒゲゼンマイの帯磁で、精度に大きく影響します。ロービート(5〜6振動)の時計のヒゲゼンマイが帯磁した場合は、精度測定器(ビブログラフ・タイムグラファー等)の測定線も乱れ、精度も明らかに悪化します。

ハイビート(8〜10振動)の時計が帯磁している場合は、弱い帯磁ですと、ゼンマイのトルクと弾性の強いヒゲゼンマイによって、精度に影響が出にくいのですが、強く帯磁した場合はやや厄介で、前述のビブログラフなどでも分かりにくく、一時的に、ほぼ正常な測定結果が出る場合がありますが、実測で日差が数分以上出ることもあります。最新式のデジタル測定器(witschなど)では、測定不能となるのですぐに判明します。

携帯電話、車のパワーウィンドー、パソコンなど、現代社会は電磁波だらけで、いつ磁気帯びしても不思議ではありません。

特に’60年代以前の時計は電磁波がほとんど飛び交っていない時代の産物で、磁気に対しては、ほぼ無防備です。

突然に時計の時間が狂うようになりましたら、点検の意味でも、どうぞお気軽にお持ちください。

2004/06/3

 

『百害あって一利あり』


機械式時計の秒針停止機能(俗にハック機能と呼んでいますが)ですが、これは”百害あって一利あり”と言えます。この場合の一利とは、秒針を停止させることができるので、時報とともに0秒に合わせやすく、日差が把握しやすい、といったことになります。

それでは、百害とは何でしょう?秒針を停止させる機能は、直接テンプの外周部分(テンワ)と接触して、物理的に作動を止めるため、非常に薄い極小の部品で構成されています。
 


ロレックスCal.3135のハックレバーは
細長く薄い板のようです


ロレックスCal.2135のハックレバー(中央金色)

その部品を巻芯からの連動で作動させるため、機種にもよりますが、この停止レバーが折れたり、外れたりすることがあります。

精密部品で構成される機械式時計にとっては、針合わせや、ゼンマイの巻上げなどのリューズの操作は、部品にとって非常に大きな負荷となります。その影響を受けるせいか、停止レバーの破損以外にも、裏押さえの折損や、キチ/ツヅミ車の磨耗など、なにかと故障の原因となりやすい箇所です。リューズ操作はくれぐれも丁寧かつ、慎重に行うことが、時計を末永く使用するうえでの注意する点です。

そのため、他の部分が全く正常であるにも関わらず、折れたレバーが歯車の間に挟まるなどして、時計が停止してしまい、オーバーホール後すぐに再び分解せざるをえなくなることもあります。

有名タレントの影響で値段が高騰した時計がありますが、このモデルでは秒針停止機能の有無で相場が異なるようです。私は修理人の立場から停止機能のないものをおすすめしますが・・

日差5秒以内が物理的に困難な機械式時計に、秒針停止機能が必要かどうか、という問題にも行き着くのではないでしょうか。

2004/04/30

 

『困難な修理とは?』


部品の入手や自作が不可能な場合を除くと、一般的に水分が浸入してから放置され、内部の機械に強固なサビが発生している場合があげられます。

比較的大きな部品の表面を薄く覆う程度のサビであれば、除去することも可能ですが、ヒゲゼンマイの場合は、サビを除去すると時間精度に影響が出たり、最悪の場合、ちぎれてしまうこともあります。

ちなみに、ヒゲゼンマイのサビはシュウ酸溶液で煮ると、除去でき、防錆効果も持続できます。

時計のサビは、言わば人体に例えると”ガン”だといえます。初期の段階で治療を施せば、完治することも可能ですが、末期の状態になると、全く手のつけようがないという点で共通しているのではないでしょうか。

さらに、サビを除去して後、適切な防錆処理を施さないと、再発生しやすく、他の部位にまで転移する、というところまで酷似しています。

いずれにしても、一度サビの発生した時計は、新品の状態に戻すことは不可能だといえます。

人も時計も、不具合が起きる前の予防、検診(点検)が重要なのではないでしょうか。

2004/04/12

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