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ムーブメント比較解説〜ロレックス 自動巻き・手巻き


これまでに数々の改良を重ねて進化してきたロレックスのムーブメントを紹介していきます。

     (1)ロレックス Cal.2135(自動巻き)

     (2)ロレックス Cal.3135(自動巻き)

     (3)ロレックス Cal.1560(自動巻き)

     (4)ロレックス Cal.3035(自動巻き)

     (5)ロレックス Cal.1215(手巻き)

 

(1)ロレックス Cal.2135(自動巻き)

 レディースのデイトジャストに搭載されているCal.2135です。

 自動巻きユニットを取り外すと、他の機械ではまず目に飛び込んでくる角穴車は一番受けの下に配置されています。
 通常手巻きの伝達は、巻き芯→キチ車、ツヅミ車→丸穴車→角穴車となりますが、「中間丸穴車」を追加することで(右写真中の赤丸部分)、各歯車にかかる負担を軽減し、磨耗、欠けを防止しています。

 また、先代のCal.2030と比較して、ハックレバーの形状が2分割に改められ、折れて時計を止めるといった事故が少なくなっています。(時計修理の現場から、参照)

 
 この機械で最も多い故障としては、OHせずに何年も使用し続けると、カレンダーが12時ちょうどに変わらずに2〜3時ごろにゆっくりと変わってゆく、という症状が出ることがあります。

 これは油の変質の他、カレンダー板裏についている、太陽のように見える部品(写真右)の歯先が磨耗、変形するためです。

 修理法としては、メーカーではカレンダー板の交換となりますが、ほとんどの場合、顕微鏡を使用して一歯ずつ研磨し、規制バネのテンションを弱めることで解決します。

 

 初期型ではカレンダー早送りが順送り、逆送りともに可能だったのですが、このため歯の磨耗が進行するらしく、後期型では順送りのみとなっています。 後期型では順送りのみになるよう右写真の赤線で囲った部品が変更されています。しかしこの対策部品は非常に高価です。

 初期型をお持ちの方は、交換せずに早送りは順送りだけにして使用するのが良いかもしれません。このカレンダー機構の不具合も、定期的なオーバーホールを怠ったことに起因するものです。

 Cal.2135は全体的には目立った故障も少なく、大変完成度の高い機械です。最新型のCal.2235は、やはりというか、このカレンダー部分を中心に改良されており、確固たる地位を築いているロレックスが、業界トップの座で胡坐をかいているのではないことを証明しています。

 
(2)ロレックス Cal.3135(自動巻き)
 ロレックスCal.3135のローターを外したところです。

 この状態からわかる特徴としては、テンプのブリッジが両方向からの支持に改良されたことがあげられます。その変更については、これでもか、というくらい雑誌等で紹介されていますが、それが何のためなのか、どういった効果があるのか?ということに関してはさっぱり語られていません。

 専門用語で簡単に現すと、「テンプのアガキ調整が容易に行える」ということです。テンプ中心にある,天芯の先と受け石の間にはわずかな隙間(アガキ)が必要になるのですが、最終的には数mm/100単位の微調整となります。

 ロレックス部品の工作精度は非常に高く、調整の必要はほとんど無いのですが、いくつかの部品が組み合わされるテンプ部ですと、最終的には微細な誤差が発生します。

 テンプ・ブリッジの下部に調整ネジ(右写真の赤丸部分)があり、これを回すことによって、テンプを平行に保ち、天芯アガキを最適な状態にすることが可能です。

 これは他のムーブメントには見られない画期的な機構です。Cal.1570まではタガネで凸をつける、ヤスリで見えない部分を削る、といった原始的な手法で調整しています。

 この機械に多い故障として、3番歯車ホゾの磨耗がありますが、これは5年以上オーバーホールを行わなかった、または水分が浸入した等の理由で、オイルが切れたのに使用し続けたことによるものであり、故障ではなく取り扱いのミスといえるでしょう。

 また、ゼンマイが切れて停止することが多く、修理業界ではこの部分にいささか問題あり、とする意見もよく耳にしますが、ちょっと違った見方もしてみましょう。
 

 これまで数十個のゼンマイが切れを見てきましたが、切れる部位がほとんど同一です。(写真右を参照)
これは、香箱芯を細くし、持続時間(ゼンマイの巻き)を増やしたためにゼンマイに負担がかかり切れてしまうのが原因のようですが、別な意図があってこのような設計にした可能性も否定できません。

 ゼンマイが巻き上がった状態で終端部が切れると、一気にゼンマイがほどけ、周辺の歯車を破壊してしまうことがあります。このCal.3135でみられるように、ゼンマイの初端部で切れた場合は、他の部位に影響を与えず、交換部品はゼンマイだけで済みます。単なる偶然かもしれませんが、意図的なものであるとすれば、さすがロレックスといった印象です。

 自動巻きの巻き上げ効率の高さ、定期オーバーホールを怠なければ日差+3〜5秒を保てる精度、カレンダーのジャストチェンジと早送りのシステムなど、いずれも他メーカーに比べて一歩抜きん出ている素晴らしいムーブメントです。

 しかし、このムーブも登場から15年以上が経過しています。次のモデルチェンジの計画が進んでいるのかもしれません。この欠点の見当たらないムーブから、いったいどこを、どういったメカニズムで改良してくるのか、今から楽しみです。(写真右はローターを取り付けた後のCal.3135)

 
(3)ロレックス Cal.1560(自動巻き)

 ロレックスの歴代ムーブメントの中でも傑作といわれる、Cal.1560です。

 GMTやデイ・デイト機能を追加したいくつかの派生型の他、30年に渡って製造され、その間改良や部品の変更が繰り返された結果、細かく区分すると多くのタイプが存在します。

 

 様々な特筆すべき特徴を持ったムーブメントであるせいか、雑誌などに取り上げられることも多いので、ここでは今まであまり解説されたことの無い点に絞って述べたいと思います。

 ’70年代に入って、秒針停止機能が追加されましたが、既存の地板を切削し、 歯車の間を縫うようにして、テンプを停止させるレバーが配置されています。

 

 この機能の無い60年代のもの(写真右)と比較すると変更箇所がよくわかります。

 Ref.1016エクスプローラーTなどは、この機能の有無で相場が異なるようですが、あくまで私的な見解ながら、私はトラブルの確立が少なくなる旧型に好感を抱いております。(時計修理の現場から、参照)

 また、60年代のもののほうが、全体の仕上げ、加工が丁寧で、メッキは上品な輝きがするものとなっています。

 

 テンプが大きいため、精度が高いのがこの機械の特徴でもありますが、それによる問題点もあります。

 大きなテンプを駆動させるためにトルクの大きな(強力な)ゼンマイが使われていますが、そのトルクのため、2番車の油が切れると、2番車の軸と地板を削りながらも動作し続けます。

 この2番車の磨耗の進行が中程度の場合、測定器では一時的に正確な数値が出るため、軸の磨耗具合を目視で見極めることが大切です。大きなテンプによって、駆動力が低下しても精度が大きく乱れないため、ユーザーが気づかず、停止したときには大きなダメージを受けている場合が少なくありません。

 このような場合は2番車の交換だけでは不完全で、旋盤を用いて地板の加工が必要になります。この作業はまた改めて手順を紹介したいと思います。

 その他、磨耗する部分としては、ローター芯があります。

 2番車とローター芯の磨耗度は、見積もりの際、必ずチェックしなければいけない部分です。交換には専用タガネが必要になります(画像の凹状のもの)。これらの磨耗も、油切れのまま長期間使用したことによるもので、他の部分で不具合が発生しないために、最後の最後でトラブルとして症状が出てくる箇所であり、欠陥/弱点とは言えないでしょう。

 また、カレンダーを12時ちょうどにチェンジさせる歯車を固定するのに、特殊なネジ(右写真の赤丸部分)が使われています。

 

 

 溝が3本切ってあるのがわかるかと思いますが、これは通常のネジとは逆に、時計回りに回すと緩むことを表しています。通常ドライバーを持つと、ネジを緩める場合、長年の習性で左へ回してしまうのですが、このネジは先が割れたドライバーを使うようになっているため、自然に修理人への注意を促すようになっており、私が大変感心している部分です。

 既成のドライバーを加工すれば5分足らずで作成可能なのですが、無理に通常のドライバーで作業したために、溝を潰してしまったり、細い軸部を折ってしまっていることがあります。この場合は純正部品での交換が最良の方法ですが、作成することも可能です。

 それには現在スイスでも発売されていない逆ネジ用ダイスが必要となりますが、当社では幸いにして60年代のMKS製(写真右)が入手できたため、作成には不自由しません。

 その他、他社製ムーブでたまに見られる裏押さえのアーム折れなどが、数十年使用したものでも全く発生せず、このあたりにも材質の良さ、設計の巧みさがうかがえます。

 “最高傑作”と称されることが多いCal.1560系ですが、自動巻ユニット、カレンダー機構などは現行のCal.3135のほうが確実に進歩しています。“ロービート(6振動以下)時代の最高傑作”であることに間違いありませんが、このムーブにCal.3135の自動巻ユニットが組み合わされれば、理想的な機械ができあがるのでは、と思っています。

 
(4)ロレックス Cal.3035(自動巻き)
 メンズサイズでは初のハイビートとなったCal.3035ですが、特徴としては、高振動化による精度向上、カレンダーの早送りが可能となった、という点があげられます。状態の良いものですと、精度は安定しており、この点は素晴らしいものです。

 ハイビート化に伴い、ゼンマイのトルクが強力になったせいで、手巻きでゼンマイを巻き上げるための歯車(写真赤丸)が1つ追加されており、オーバーホールを怠ると、この歯車の中心軸がたちまち
磨耗し、高価な1番受けを交換することになります。

 前作Cal.1570に多かった2番車の中心軸磨耗に関しては、2番車(写真大きい方の赤丸)を中心からずらして配置し、 分針の付く筒かな(写真小さい方の赤丸)にはトルクがかからないように設計されています。このため、地板に磨耗は起こらず、交換は歯車だけで済みます。
 
 故障例としては、自動巻ローターの脱落があります。ローター芯を馬蹄形の部品(写真赤丸)で挟み込んで固定しているのですが、この部分が大変"微妙"な設計となっており、きつい(狭い)と入らず、ゆるいとローターが脱落します。部品表を見ると、数ミリ/100mm刻みで3種類用意されており、加工誤差や、磨耗の程度によって現物合わせで選択します。

 また、秒針停止レバーが折れることも多く、それが原因で時計を止めてしまい、 オーバーホールが必要となることもあります。時計の動作には影響がないので、取り去ってしまってもよいのに、とさえ思います。

 最もやっかいな不具合としては、スリップと噛み合い、という相反する2つの役割を担う「遊動日修正車(写真赤丸)」の動作が不安定で、しばしばカレンダー早送り不良を引き起こすことがあげられます。

 解決策として、全自動洗浄器で油分を完全に除去し、歯車表面を丹念に磨いて、スリップとかみ合いの切り替えが確実に行われるようにします。

 このCal.3035で初お目見えとなったカレンダー早送り機構ですが、やはり未完成なものであったらしく、次のCal.3135では大幅な改良が加えられています。

 Cal.3135が登場した後も、カレンダー無しのCal.3000はエクスプローラTやエアキング用に生産が続けられており、この部分を除いては完成度の高い機械であったことがわかります。

 
(5)ロレックス Cal.1215(手巻き)

 手巻きオイスターデイトに搭載されている、Cal.1215です。中三針方式であるため、中心よりやや右上部に見える、3番歯車から延長された“出車”が特徴的ですが、これは従来のスモ−ルセコンドからの設計変更を極力少なくしつつ、ムーブメントの厚みを抑える機構です。
 

 この出車を外す際、無理なやり方をして受けをキズだらけにしてしまったり、歯車や軸を曲げてしまっているものが非常に多くあります。

 秒カナを外した後、中心部分にオイルを指し、楊枝の先で回してやる事によって、どこにもダメージを与えることなく出車を外すことが出来ます。針を逆回転してカレンダーを戻しても、機械には全く負担がかからないので、比較的早くカレンダー合わせをすることが可能です。

 カレンダー早送り機構が付いている時計の場合、トラブルが出やすくなることも事実で、このCal.1215の方式が最も安全かつ確実なのでは、と思います。
 

 カレンダー板の歯車が磨耗している場合でも、規制バネや送り車(右の写真の赤丸部分)の微調整で対応可能なため、オーバーホールで機能を回復できることが多いのも特徴です。

 雑誌などにはあまり取り上げられていませんが、両回転巻上げ第1世代であるCal.1030は、このCal.1215に自動巻きユニットを重ねたものです。その証拠に、パーツリストでは部品番号が異なるものの、キチ、ツヅミ車など、共通して使用できる部品がいくつかあります。

 これまで、数百個のCal.1215を見てきましたが、錆びによるダメージを除けば、磨耗する箇所はほとんどありません。

 チラネジと巻き上げヒゲを採用したテンプ、針合わせの際に稼動するオシドリ、裏押さえのなどの造りは高級機種に比べて遜色ないものです。

 比較的安い値段で流通しているせいか、とかく造りもそれなり、という評価を受けがちですが、決してそうではないことがわかります。状態さえよければ、歴代ロレックスのなかでは最もトラブルの少ない、完成されたムーブメントであることは間違いありません。

 

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